ブーケ・リハーサル
「食事くらいは頭空っぽにしたいですよね」
「うん。相手の思惑を察知しながら、こっちの考えに誘導するような食事ばかりだから。まあ、それも大事な仕事だから仕方ないけどね」

 社長は少し疲れたような笑顔を見せた。

「秘書の仕事はどう? やっていけそう?」
「まだ日が浅いのでなんとも言えませんが、頑張っていきたいと思います」
「そう。いい心構えだね。君は秘書に向いているよ。佐々木課長も、呑み込みが早いって褒めていたよ」
「そう言ってもらえると嬉しいです」

 私の場合は職場の環境に恵まれているんだと思う。秘書課の皆さんは仕事を丁寧に教えてくれる。社長も副社長も絵に描いたような横暴な人ではなく、自分のやるべきことを、会社に有益になることを理解して動く立派な人なのだろう。

「そうだ、昨日は妹となにを話したの?」
「なにと言われましても、ただの雑談ですが」
「妹が君とまた話がしたいって言ってたからね。珍しいよ、妹が俺の秘書に興味を持つなんて」
「女性が二人以上集まれば必ず出てくる話をしたので、樹里さんの興味を引いただけです。決して、私自身に興味を持ったと言い切れないかと」
「そんなに謙遜しなくてもいいよ。会社には来るなと注意はしているんだけど、なかなか聞かなくてね。また、妹が来たら、相手をしてやってくれないか」
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