ブーケ・リハーサル
「もちろんです。私も樹里さんとお話しするのは、とても楽しかったですし」

 副社長は「よかった」と言って笑った。

 昨日の電話をしていた時も、そんな顔で笑っていたのだろうか。目元に小さなしわを作り、口角を軽く上げる笑顔。整った顔は笑っても綺麗なままだった。

 食事が運ばれてくると美味しそうな匂いがする。

「いただきます」

 割りばしをどんぶりに入れると、卵がふわっとしているのが分かる。口に入れると卵の甘さと出汁の旨味が広がった。

「美味しい」
「だろ。ここの料理はどれを食べても旨いんだ」

 副社長も唐揚げを美味しそうに頬張った。

「高山さんって、映画観るの好きなの?」
「はい。映画館に行って観るのも好きなんですけど、最近は家で観るほうが多くて。ダラダラしながら映画が観られるって、最高だなって思うんです」
「それ、分かる。大きなスクリーンで観るのもいいけど、家での自由気ままに観られる感じっていいよな」
「はい」

 副社長って肩書があっても、普通の人なんだと思った。見た目の良さや肩書のせいで、なんとなく仕事以外で関わることのない人だと感じていた。仕事とプライベートを区別することは当たり前だが、同じ人間を自分とは違うと区別するのは違うのかもしれない。
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