ONLY YOU~愛さずにはいられない~(完)
「男が泣くなんて…情けないな」

彼は自嘲的に呟き、瞳を伏し目がちにした。
涙で濡れた睫毛は女性のように艶めいて見える。

悄然する彼の表情を見ていると心臓の鼓動が早鐘を打ち鳴らす。
そして、また心が堪らなく切なくなっていく。

なんでだろう…

やっぱり、私の心臓の中に別の誰かが居る。

そんな、錯覚に陥った。

私の心臓は同年代の女の子のモノだとは聞かされた。
でも、それ以上のコトは守秘義務によって教えられていない。

彼女の心臓を移植しなければ、私は当に死んでいる。
彼女のおかげで生き永らえた命。

私は彼女の家族に移植コーディネーターを通じ、感謝の手紙を書き、毎年年賀状を送っていた。

私の心臓に居る誰かとはその彼女かもしれない。

彼女もまた…コーガのファンだったんだろうか?
その可能性はある。

だから…彼を見ているとこんなにも切なくなるんだ。
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