ずっと前にね

どうしたものか

晩の事だ。先に風呂に入った千里が、膝掛けに寄りかかりながら椅子に座って寝ていたんだ。もちろん、俺に起こす度胸はない。寝顔を見て、胸の奥がキュンッと高鳴って。
バクバクして収まらない鼓動を何とか抑えようとパソコンを開いては教師の仕事をした。でも、気になるのは千里で仕事なんて少しも手につかない。少しでも気を緩めれば、千里の寝顔に見とれてしまう。
恋しているんだ。こんな歳になって初めて恋をしている。バカらしいと思うけれど、一度好きになってしまったら変えられない事実。フラれても彼女にはずっとときめいている気がする。その証拠に、少し動いただけでもビクッと反応してしまう。まるで静まり返った部屋で突然、大きな物音がした時のようにビクッと体が浮くんだ。

「おーい、カシザキー」

1秒が10分にでもなったのではないかと思えるくらい、時が止まった時間を過ごしていた。だからこそ、急にガラッと戸を開けた健たちに驚いてしまったんだ。
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