内実コンブリオ
たったそれだけのことが出来なかったのは、技術、勇気、自信、強さが無かったから。
でも、今なら出来る気がする。
最初はゆっくり、そう、格好なんてつける必要は、どこにも在りはしない。
初めての経験だ、人に相談するなんて。
角野先輩は、しばらく黙り込んでいた自分を、静かに待ってくれていた。
どんな反応をされるのかを考えると怖かった、本当は。
少し深呼吸をした。
「…電車が、怖いんです」
「え、確かにあんな細いとこを走っとって、心配にはなるけど、そう簡単に脱線はしやんよ」
「いや、あの、そうではなくてですね…」
そんなことを真剣に真顔で言う角野先輩に思わず、自分は苦笑いした。
「会社帰りの電車に乗った時、少しトラウマになった出来事がありまして…ちょうど、その、えっと…
先輩のご機嫌を損ねてしまった、前日です」
角野先輩はハッと思い出した様にしたあと、目を微かに細める。
その表情は、何かを言いたげだった。
しかし、話を最後まで聞こうとしてくださっているのか、それで何があったん?と言って、何か言いたいことを堪えていた。