内実コンブリオ
またいつものように帰ろうとする奴を、ある日引き留めた。
『おい。自主練してかねぇのか』
栗山くんがそう声をかけるも、水川は背中を向けたまま、無反応でいる。
『お前、最近どうしたんだよ。なあ、おい…』
栗山くんがそのまま、水川の肩に手を置く。
すると、水川はゆっくりと振り返った。
振り返った水川の顔は、とても険しいものだった。
『良いよな、お前は。1年でベンチ入りしてんだもんなぁ』
『そ、そんなん、お前だってこれからチャンスはいくらでも…』
『お前は結果が良かったから、そんな能天気な軽口が叩けんだよ』
同じ位置からスタートした彼らが、ある日突然に立ち位置が変わる。
役割も、思いも、全く違うものになってくるものだ。
それは、どの組織にだって同じで、当たり前のことである。
それを改めて痛感させられた栗山くんは、何も言えなくなってしまう。
水川は、そんな栗山くんを見下すような態度で言った。
『お前は元々、野球の才能があるから良いよなぁ…よくキャプテンらにも褒められてよぉ!』
「元々、才能ある、ってとこで俺、カチーンときちゃって」と烏龍茶のグラスを弄りながら、栗山くんは苦笑いをする。
自分は、カシスオレンジをちびりちびりと飲み、のめり込むようにして話を聞いていた。
そして「それで何を言ったの?」と興味津々に尋ねてみた。