内実コンブリオ
「ご、ごごご、ごめん!よかったら、どうぞ?あ、明太子とか苦手じゃない?大丈夫…?」
「うん。大好きだよ」
栗山くんの不意の台詞に、柔らかい笑顔に、心臓がドクリと跳ねる。
栗山くんがその台詞を向けているお相手は、明太子ちゃんだと分かっているのに、思わず動揺した。
とても単純な自分。
意識なんてしている自分に、恥ずかしくなった。
赤く火照ったこの顔を覚られないように、俯き気味に皿を栗山くんの方へと押す。
すると、皿を反対側から、軽く押し返された。
顔を上げると、栗山くんが楽しそうに微笑んでいた。
「いいよ。華さん、食べて」
「でも、美味しいよ?めっちゃ」
「うん。顔見てたら、わかる」
栗山くんは、やっぱり笑って言う。
そんな顔を見ていたら、尚更この味を共有してほしくなった。
「じゃあ、食べてみて。本当に美味しいから。ここから、ここまでで…半分こ」
こう言えば、食べてくれるだろう、なんて確証はどこにもない。
しかし、自分が言うと、栗山くんは自身の口元に触れながら「ありがと」とまた微笑む。
「いえいえ」と冷静を装いつつも、自分の心臓は、未だにバクバクと騒ぎ続けていた。
心なしか、栗山くんの頬まで、赤く染まっているように見える。
きっと自分のが伝染してしまったのではないか、とひたすら不安にもなった。
やめよう、不安なんか、いちいち抱くのは。
何故か、なかなか減らないカシスオレンジを、またちびりちびりと飲む。
そして、何気なく栗山くんが、だし巻き玉子を口へと運ぶのを、少しだけ見ていた。