内実コンブリオ

今、自分の隣で愉快そうに話をしてくれる彼は、ほろ酔い状態で歩いている。

その足取りは、確かだ。

全体がほのかに紅く染まる彼を見ていると、自然と口元が緩んでしまう。

でも、冷静にものを考えてみれば、この状況というのは、本当なら有り得ないことなんだろう。

お互いずっと、目は合っていたはずだった。

しかし、栗山くんが何の前触れもなく、不思議そうな顔をした。



「俺の顔に、何か付いてる?」

「え?ううん」



栗山くんに不思議に思われるくらい、じっとり見ていたのだと思うと、顔が熱くなって仕様がなかった。

咄嗟に目を反らした時、偶然にもある店前に居る、ビニール人形の雪だるまが視界に入った。

そこで、ふと忘れていた、あることを思い出す。

自分は慌てて、鞄の中身を漁った。


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