マリンシュガーブルー
「姉ちゃん、ちょっと貸してくれ」

 震えてただただ呆然と写真を見ている美鈴の手から取りさる。写真をテーブルに置いた宗佑は、男の顔の下半分指で隠した。

 美鈴もそれを見て、疑いようもなくさらに驚かされる。

「うわ、あの人だよな。な、姉ちゃん」

 この店に来ていた彼はいつも不精ヒゲの厳つい顔だった。でも髭がなく制服姿の彼は凛々しく清潔感に溢れている男らしい人。

 弟の目が輝いた。でも、美鈴は震えが止まらなくなる。
 うそ、あの人……だって入れ墨があって?
 それに目の前にいる女性は? 彼の奥様? こんな制服姿の彼の腕に抱きつくようにして写っているのに。

 だからなの。だから、何も言ってくれなかったの?
 だったら。私はこの奥様にしてはいけないことを?

 宗佑もまだ飲み込めないのか、男の顔を半分隠しては眺め、全体の顔にしては眺めを繰り返している。着物の彼女がはたと何かに気がついた。

「あら。そうだったわ。いまその顔ではないかもしれません」

 ちょっと待ってくださいね――と、彼女が持っていたバッグからスマートフォンを取り出す。

「これですの、これ。娘と息子と写っているこれが最近のものですの」

 娘と息子!? もう美鈴はふらっと気が遠くなってきた。

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