気高き国王の過保護な愛執
「やってるやってる。相変わらず変態ね、クラウス。ごきげんいかが」


工房の入り口から、イレーネが顔を覗かせた。

彼女の背後に見える庭は、もう夏の無尽蔵の力強さはなく、穏やかに秋の準備に入っている。


「ごきげん麗しゅう、愛くるしいイレーネ様」

「あの偽物に足りなかったのは、その陰険さよ。本物だわ、懐かしい」

「殿下の察しのよさが、少しでもこのポンコツ陛下にあればよかったですね」

「記憶がなかったんだって言ってるだろ!」


鍛冶師の振るう槌の音以上に外野が騒々しくなってきたところに、ゆらりと入ってきた黒い人影がある。さすがのクラウスも、はっと姿勢を正した。


「陛下、こちらの剣を代わりにお持ちください」

「おれのは、いつ研ぎから戻ってくるだろう?」

「明後日には」


ゲーアハルトは、深みのある声で、ささやくように言った。

ルビオはうなずき、素朴な装飾の剣を受け取ると、鎖だけがぶら下がっていた剣帯の留め具に通し、腰に差した。

大臣がフレデリカのほうを見た。


「お身体は回復されたか」

「ご心配には及びません」


金色の瞳が細められる。おそらくこれは、彼なりの笑顔なのだろうとフレデリカは解釈した。

再び古ぼけた椅子を引き寄せ、背もたれを抱えるようにまたがったルビオが、鍛冶師の手元をじっと見つめる。

打ち直されているのは、王の剣のほうだ。


「あの剣は、なぜあんなに軽かった」

「先王は晩年、膂力が極端に衰えになりました。ご本人にも悟られぬよう、私は剣を少しずつ、軽くしていきました」

「弱っていらしたのだな…」

「だから妃殿下が動いたのですよ。先王がご自身の状態に気づき、後継を決めようとしては、不都合だったわけです」


鍛冶の音に紛らせ、クラウスが言う。
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