気高き国王の過保護な愛執
ルビオは、久しぶりに完食した、空の食器を見下ろした。


「もっと言えば、今のあなたは、かつてのディーターがなりたかった姿なのだと思いますよ」


フレデリカが、テーブルの上で彼の手を握った。


「ほら見なさい」


得意げに、つんと顎を上げて微笑む姿が、小憎らしくてかわいらしかったので、首を伸ばして口づけた。フレデリカの頬がさっと紅潮する。


「ルビオ!」

「ぼく、生きててよかったなあ」

「え…?」

「なにを急に老け込んでるんですか」


ルビオは自分の前の葡萄酒のグラスをフレデリカに回した。クラウスが新しく一杯そそぎ、ルビオの前に置く。


「リッカに拾われてよかった」

「今、それ?」


怪訝そうにするフレデリカに微笑みかけ、ルビオは勝手に乾杯をした。

河へ落ちたとき、きっと自分は、そのまま死んでしまえたらいいと思っていた。死んでしまう勇気もなかったから、逃げていただけで。

命が繋がって、よかった。

ルビオははじめて、心からそう感じた。

だがクラウスの言う通り、まだなにも解決していない。ジャン・ミュイとクラウスが入れ替わっていたことは、公表したところでなにも得るものがないので隠したままだ。

フレデリカやゲーアハルトたち以外は、昨日と今日のクラウスが同じ人物だと思って過ごしている。

王妃の罪を暴かなくては。そのためには…。


「父上と兄上の遺体を…」

「もう少しだけ時間をください、ディーター」


グラスに口をつける、クラウスの横顔を見た。


「心当たりがあるのか」


彼はなにも言わず、眼前のどこかを見つめて葡萄酒を飲む。

フレデリカの手を握り返した。

あと少し。

きっと、なにもかもが解けるときが来る。


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