気高き国王の過保護な愛執
以前、突然勃発した暴動も、今思えば王妃が裏で糸を引いていたに違いない。

壁に無数に貼り付けられた、王への悪口雑言が書かれた木札を、イレーネは忌々しそうに一枚引っぺがし、ぽいと捨てる。


「カスパル様というのは…」

「あんなの、王になんてなれるわけないわ。部屋に籠って虫ばっかり眺めてる人よ。悪人じゃないけど、普通の生活さえできるか怪しいわ」

「おいくつになられたんでしたか…」

「ディーター兄さまのひとつ下よ」


フレデリカは再び息をついた。王妃は摂政となって、国を操る野望を抱いているに違いない。


「あの人は、共和国の隅っこの貴族の娘よ。世継ぎを産む気満々で嫁いできたものの、ふたりの夫人に先を越され失敗。実家はみんなああいう性格だから、共和国では孤立。帰る家はない。ここを自分の国にすることに決めたのね」

「彼女なりに追い詰められているんでしょうか」

「どんなに追い詰められようが、他人を傷つけるくらいなら自分を殺すことを選ぶ人もいるわ。あの女は単に、ああいう人間なのよ、きっと」


王室付きの侍従たちが、立て看板を取っ払い、落書きを消し、階段を磨いている。イレーネが見たいと言ったので連れてきたが、これ以上は邪魔になると思い、フレデリカは王城に帰ることにした。

広場で馬車がふたりを待っていた。ほんの少しの距離でも、この時勢の中イレーネを歩かせるわけにいかない。


「昔は、ナニーに手を引かれて王都を散歩したことだってあったのにな」


革張りの馬車の中から、イレーネはつまらなそうに窓の外を見ていた。




国民の前に顔を出しましょう。

それはクラウスの提案だった。ルビオもすぐに承諾した。


『そのときが来たのだと思う』

『準備を始めます』


ルビオがはじめて、王として人前に立つ。どう受け止められるかは、誰にもわからない。
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