気高き国王の過保護な愛執
「その調子だ。全部吐き出してしまうといい」

「うぁ…!」


上から体重をかけるようにして、オットーが手のひらのつけねで矢を完全に押し込んだ。青年は咳込み、胸を喘がせながらも、声の主を確かめるように首をねじり、肩越しに親子のほうを見た。

青みを帯びた、透き通った灰色の瞳がフレデリカを捉えた。

なんて神秘的な瞳なのかしら。

吸い込まれるような色味にフレデリカは見入り、それからその目つきに込められた、混乱、非難、問いかけ、困惑、訴えなどを感じ取った。


「大丈夫よ、すぐ終わるわ」

「なにか握らせてやりなさい」


オットーは、わけがわからないといった表情で自分の身体を見下ろす青年を抱き起こし、長持の上に座らせた。左腕のつけねからは、凶暴な三角の鉄の矢じりが全貌を現している。

フレデリカは薪の破片に手早く布を巻き、青年の手に持たせようとしたが、失敗した。彼の左手は、別のものを探し求めているように動き、フレデリカの手を握ったのだ。

驚いて青年の顔を見上げた。その瞳は苦痛のためか朦朧とし、なにも見ていないように見えた。

オットーがふたりの手元に目をやり、顔をしかめる。


「指を折られるぞ」

「仕方ないわ」


空いた手で、青年が口の中を傷めないよう、布を噛ませようとしたけれど、それもできなかった。すでに固く食いしばられた歯列には、少しの隙間もない。

オットーが矢じりを布で掴み、ねじるように引っ張った。青年の喉からくぐもった悲鳴が漏れる。フレデリカは彼のそばに腰かけ、頭を抱いた。

乾きかけていた金色の髪は、またぐっしょり濡れている。汗だ。

汗をかけるなら大丈夫よ。あなた元気だわ。

オットーの動きに呼応するように、青年の筋肉が緊張する。痛めているはずの左手で、フレデリカの手を握りしめる。本当に折られるのではとひやりとした瞬間、フレデリカの肩に鋭い痛みが走った。


「痛っ…?」


青年が歯を立てているのだ。

同時に右腕でフレデリカの肩を強く抱き、穴を穿たんばかりに指先を食い込ませている。
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