気高き国王の過保護な愛執
「ええ。戦況としても半端な断面で、なぜ今、という声もあります」

「踏み絵だろう、定期的な」


ルビオの考えを肯定するように、卿がゆっくりとうなずいた。

防衛、またそこから関連の強い土木、財務をこのゲーアハルトが管掌している。ほかに大臣は二名いるが、戦乱の時代が続いた名残で、テルツィエールではかつての軍事、今でいう防衛を司る大臣がもっとも位が高い。

王妃を除けば、今現在、この国で王に次ぐ権力を持っている男といっていい。


「卿の計画は」

「騎兵を五十、歩兵を二百。戦線ではなく、補給路の警備に当たらせる条件で」


ルビオは笑ったが、大臣のしかつめらしい顔はにこりともしなかった。

この国の軍はすでに解体され、騎士団という形で存続している。貴族の子息を預かってもいるし、一般階級から入団し、叩き上げで隊を束ねている優秀な人間もいる。

広大な共和国の反対側の辺境で勃発した、つまらない闘争に派遣した挙句、何人かは帰ってこられませんでした、じゃ悔やんでも悔やみきれないのだ。

ゲーアハルト卿の判断は冷静で、ぎりぎりのところで共和国への体面も保ち、しかもそれとなく彼らをバカにしている。


「許可をいただけますか、陛下」

「認める。食糧と備品もたっぷり持たせてやれ。卿も行かれるのか」

「いえ、私は王城を空けるわけにいきませぬゆえ」


ルビオは肩越しに振り返った。金色の目が、眼窩の奥から見つめ返す。


「おれへの話は終わりか」


静かな声に、ゲーアハルト卿は脚を止め、遠ざかる王を頭を下げて見送った。

フレデリカと過ごした後は、一歩一歩、彼女と離れるごとに、己の中のもう一人の自分が顔を出すのを感じる。

石造りの城の空気は、平穏な村で過ごした"ルビオ"を彼から剥ぎ取り、ここで生まれ育った王子に戻す。

だがそれは、たいていは皮膚のすぐ下くらいまでの影響に留まり、頭の中を刺激はしない。

ルビオはそのたび、安堵の息をついた。

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