気高き国王の過保護な愛執
自室に戻ると、すぐにクラウスがやって来た。
「王立書院主催の学術大会の、アカデミー級の部門に、イレーネ様がフレデリカ殿の力添えで論文を発表したんですよ、ご存じですか」
「ああ、うん。聞いた」
「先ほど、院長じきじきにお見えになりました。見事、主催者賞を受賞したそうですよ」
「すごいな!」
ふたりがきゃっきゃっとなにかにいそしんでいるのを、ふうんと見ていただけのルビオは、その成果に驚いた。
「イレーネ様は、アカデミーに通われてはいかがですか?」
「本人が嫌がってるんだ」
「もったいない。どこかへ嫁ぎ、子を産むだけの人生を送る方ではありませんよ」
たしかにその通りだとルビオも感じた。
「院長はもう帰られたか? 書院に、イレーネを預かるだけの余裕があるか、尋ねる書簡を書きたい」
「今晩は王都内の領主館にお泊りになるそうです」
「すぐ書く」
ルビオは机の上の羽ペンを取り、院長に向けた手紙を丁寧にしたためた。
肩越しにそれを覗き込み、クラウスが「相変わらず別人の筆跡ですね」と渋い声を出す。
「仕方ないだろ、こうなっちゃうんだよ」
「記憶というのは不思議なものですね」
末尾にサインを入れる。
王位に就く前から使っていたこのサインを、奇妙なことに身体は覚えていた。しかしいざ書いてみると、どう見ても本人の筆跡ではなかった。
『これ、効能を疑われないかな』
心配になったルビオに、クラウスが『もう調べさせました』と肩をすくめた。
『鑑定師の目では、むしろ同じ人物の筆跡に見えるそうですよ』
ふたりで、職人というものはわからない、と首をひねり、王位継承を機に書き方を変えた、ということにしようと決めた。