元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました
「おいしい……」
出海君はコーヒーを飲むと、カップを見つめながらふわっと笑った。
……見惚れてしまっている自分に気づき、きれいだし仕方ないと心の中で分析と言い訳をする。
「おいしいです、希奈さん」
その笑顔のまま私を見るので、さりげなく目を机の上のお菓子たちに移す。
「いい豆だからじゃないですか」
レギュラーコーヒーをペーパーフィルターで淹れただけなんだけど。
「僕が淹れるとこんなにおいしくできませんから、希奈さんの淹れ方が上手なんですよ」
……褒め上手。
大学時代からそうだった。
悪い気はしないけど、慣れていないので居心地が悪い。話題を変えよう。
「お菓子、お好きなんですか?」
机の上の籠には、スナック菓子やクッキー、チョコレートなど、スーパーやコンビニで売っている普通のお菓子が山盛りになっている。大手メーカーから、うちのグループ会社のものまで、様々だ。
出海君は「どうぞ」と私にすすめて、自分でもクッキーの箱を手に取った。
「好きというわけではなかったんですが、この仕事になってから勉強がてら自分でスーパーやコンビニやドラッグストアを回って買うようにしてます」
一般人と違って、好きでもないカテゴリーの仕事につくんだから、大変なんだな。
「大変ですね。でも、その歳で常務だなんて、本社の上の方に期待されてるんですね」
思ったことの前半は省き、お世辞をくっつけて口にした。