元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました
–––––––「期待、ね……」

低い声の返事にハッとして出海君を見ると、自嘲する笑いを浮かべて、クッキーの箱をいじっている。

……どうやら地雷を踏んでしまったらしい。

この人のはっきりした影の部分を見るのはこれが初めてだった。

「失敗する期待の方が多いくらいですね。推薦しておきながら、失敗するのを手ぐすね引いて待っている……。ご苦労なことです」

……ゾッとした。

……何て世界に生きているんだ、この人は。

私には縁のない世界。
そこでの孤独と不安を想像し、気持ちがずっしり重くなってしまった。
御曹司も楽じゃないとは思ってたけど、いざ生々しく突きつけられると、引くな。

出海君は勢いよく、バリッとクッキーの箱を開けた。

ヤケになってるのかと思いきや。

「まあ、彼らの思い通りにはなりませんけどね」

瞳を輝かせ、不敵に微笑んでいる。
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