あべこべの世界
女の体なんて全て偽り
 スマホに夢中の直美の伏せた目には長いエクステがびっしりついている。

 普通は12ミリぐらいだけど、きっとあれは15ミリはある。

 さっきから懸命に文字を打つその指は自己主張の強いネイルアートが施されている。

 わたしは手持ち無沙汰で吸いたくもないタバコに火をつけ、自分の腕時計を見た。

 昼休みももうすぐ終わる。

 あと10分もしたらここを出て会社に戻らないといけない。

「やった!」

 直美はニヤリとし、また黙って指をすばやく動かす。

 会話をしている相手が誰なのか聞かなくても分かる。

 三つ年上の彼氏だ。

「金曜のお詫びになにか買ってくれるって」

 指を動かしながらしゃべる直美をわたしはいつも器用だと思う。

 この前の金曜日、五反田でずっと直美の彼氏の愚痴とのろけ話を聞かされた。

「何をおねだりしようかな?」

 直美はスマホに目を落としたまま、テーブルの上のコーヒーカップに手を伸ばす。
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