あべこべの世界
「でも先に食べてていいって言ってたよ」

 わたしのお腹がぐーとなる。

 なんだがタイミングが悪い。

「遅くなったら今晩敏ちゃんのとこに泊まってもいい?」 

「別にかまわないけど」

 また鳴りそうなお腹を手で押さえた。

 孝志は週に一?二回うちに泊まる。


 三年前のある日突然わたしは孝志に告白された。

 家の近所のクリーニング屋で働いている孝志は、いったいいつ頃からわたしのことが気になり始めたのだろうか?

「こ、こ、今度一緒に、え、映画でも!」

 と、真っ赤な顔をし、つばを飛ばしながら誘われたときは、思わず持っていたクリーングを落としてしまったっけ。

 こんなドラマのような告白とそのリアクションって現実にあるものなのだな。

 それもまさかの自分主演。

 主演にしてはどちらも冴えなさすぎる容姿だけど。


 わたしは隣なりを歩く孝志の横顔を見た。

 いったいこの気の弱そうな彼のどこにあんな勇気があったのだろうか?
< 15 / 49 >

この作品をシェア

pagetop