あべこべの世界
 いつの間にか寝てしまったのか、気づくと部屋の時計はお昼すぎを指していた。

 わたしはのっそり起き上がり、ユニットバスの鏡の前に立った。

 マスカラの繊維が目の下にいくつも付いている。

 昨夜は化粧も落とさずに寝たのだ。

 わたしは適当に洗顔料を手にとり、適当に泡立て、適当に洗顔をすませる。

 タオルで顔を拭いているときにマンションのインターホンが鳴った。

 誰?

 宅配?

 人に会う気分じゃなかったので、息を潜めて居留守を使うことにした。

 インターホンは神経質そうに何度もなる。
 
 誰?

 宅配じゃないの?

 嫌だ、怖い。

 と思った瞬間ドアの向こうから孝志の声がした。 

「敏ちゃん。敏ちゃんいる?」

 わたしはほっとして、タオルを持ったまま玄関のカギを開けた。

「敏ちゃん!」

 髪や肩に雨雫をつけた孝志が立っていた。
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