あべこべの世界
 そのとき春風が桜の木を揺らし、雨雫がわたし達二人の上に落ちてきた。

 慌てて木の下から走り出て、二人声を上げて笑った。

 風がまた吹く。

 孝志は着ていたジャケットのジッパーを首元まで上げて首をすくめた。

「寒くなってきたね。家に帰ろうか」

 わたしはうなずき、手をつなぎ直した。


 あべこべの世界になったおかげで、わたしは大切なことに気づかされた。

 だからこのまま元の世界に戻らなくても良いかも知れない。

 少なくともわたしには孝志がいる。
 
「ねえ、今日はなにかわたしが作る!」

 わたしは繋いだ手をぎゅっと強く握った。

 また春風が吹いた。
< 47 / 49 >

この作品をシェア

pagetop