凪ぐ湖面のように
彼が心に入ってきたら……? ダメだ、怖い。彼まで消し去ることができない人になったら……? 生きている限り、出会いも別れも繰り返される。

出会った事実は変えられない。だが、関係を深めなければ、通りすがりの人と同じ無関係な人だ。顔を合わせなくなったとしても心は痛まない。

「どうしてそんな怯えた目をしているの? 何が怖い?」

湖陽さんの優しい瞳が私の瞳を覗き込む。

眼力というのだろうか、その何とも妖し気な瞳に負けそうになりながらも、精一杯強がる。

「――なら、お手並み拝見です。私が私の今を輝いていると思えたら、湖陽さんの勝ちです。何でも言うことを聞きましょう」

口を突いて出た言葉に、自分で突っ込む。
大馬鹿ヤロー、何を言っているんだ……と。

「それは面白い。乗った! 約束だよ」

「何をねだろうかなぁ」と湖陽さんは子供のようにはしゃぐ。
それを横目に、ああ、身から出た錆だと私は項垂れる。
< 68 / 151 >

この作品をシェア

pagetop