凪ぐ湖面のように
「食事を忘れるぐらい好きで没頭できる仕事なんだろう? その仕事を認め依頼する人がいて、作品を買ってくれる人がいるんだろう? その人たちに失礼だよ」

確かに、失礼な話だ。
天職かどうかは横に置き、改めてそんな風に言われると……。

「湖陽さんの言葉で好きを自覚しちゃいました。私って幸せ者ですね。好きなことを仕事にできて」

「そうだね」と、先ほどとは打って変わって湖陽さんが優しく笑みを浮かべ頷いた。

「好きを仕事にできる人はそう多くないし、できても続かない人が多い」
「続かない? そうなんですか、どうして?」
「苦しくなるから」

好きなのに苦しくなる? これは分かる気がする。

「私も新作を書く時、生みの苦しみっていうのを何度も経験しています。ですが……」

苦しいと続かない?

「それ故に、出来上がった時、すごく喜びを感じ、作品が愛おしく……苦しいって分かっているのに、また書いちゃうんです。だから、分からないです。続かない人の気持ちが」

湖陽さんがクスッと笑う。

「プロの作家だね。だからこそ、君にとって作家という職が天職と言えるんじゃない?」
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