凪ぐ湖面のように
「お前って本当にイケメン好きだな」

水谷さんが「コイツの旦那もメチャ、イケメンなんですよ」と、友枝女史が既婚者であることを暴露する。

「誰がイケメンですって! もう、だから仕事中は独身にしておいてって言ってるでしょう!」

その方が何かと仕事がし易いのだそうだ。

「バカか、指輪の跡つけてて何が独身だ」
「本当、何やってんだかです。あれこそ本物の痴話喧嘩なんですよ」

佐藤カメラマンが溜息を付く。

「――ということは、友枝女史の旦那さんって……」
「そう、水谷さん」

キャンキャンと言い返す友枝女史だが、そう言われてみれば……水谷さんとのパーソナルスペースが近い。なるほどねぇ、と納得する。

「スキンシップ終わりました? 仕事始めていいですか?」

佐藤さんの言葉でハッと二人の顔がこちらを向き、バツの悪そうな顔になる。

「いやぁ、すみません。お見苦しいところ見せちゃって」

そう言いながら水谷さんは湖陽さんをチラッと見る。

牽制のためワザとだ。男臭い髭面の……中年……にはまだ早い、そんな年齢不詳男の嫉妬、可愛いじゃないか!

これは使える、と心にメモ書きする。
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