亡国の王女と覇王の寵愛

敵国

 そのまま意識を手放してしまったレスティアが最初に見たのは、真っ白な天井だった。
 手の届かない高い場所に格子のはまった窓があり、そこからわずかに陽光が差し込んでくる。
(……ここは?)
 慎重に首を巡らせて周囲を見渡すと、部屋の隅に置かれている寝台に横たわっていたのがわかった。何の飾り気もない寝台は、床にそのまま寝ているかのように固い。
 この部屋は壁も床もすべて白く、寝台の他には小さな机と椅子があるだけだ。扉は頑丈そうな鉄製で、きっと厳重に施錠されているのだろう。
(まるで牢獄のような……)
 周囲にも人の気配はない。
 祖国では誰もが見惚れ、絶賛した豪奢な金色の長い髪がもつれて、無残な有り様になっている。レスティア自身も手入れを怠らずに大切していたが、今はそれを気にする余裕はなかった。
 わずかに痛みを訴える頭を押さえながらゆっくりと身体を起こし、寝台に腰をかけて狭い室内を見渡す。
 高所から降り注ぐ光は窓の形に格子状になっていて、自分が囚人であると思い知らされる。
 ひんやりとした冷たい空気が身体を包み込む。
 季節はまだ秋になったばかり。
 この時期のグスリール王国は、こんなに冷えないだろう。
(……ここはヴィーロニア王国、なのかもしれない)
 レスティアは自らの辿り着いた答えに怯えるように、唇を噛み締めた。
 あのまま殺されてしまうと思った。
 実際、レスティアを捕えた男達はそうするつもりだったのだろう。それなのに滅ぼした国の王女を自国に連れ去って、あの覇王は何をしようというのか。
 何も知らない。わからない。
 それが不安を増長し、レスティアは落ち着きなく部屋の中を見渡す。
 重い鉄製の扉を揺するような音が聞こえたのは、そんなときだった。
 レスティアはびくりと身体を震わせ、入り口にある厳重な扉を見つめた。
 あの覇王の冷たい目を思い出す。
 ここは生まれ育った祖国ではない。レスティアを大切にして守ってくれていた人達は、もういない。
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