亡国の王女と覇王の寵愛

 窓から差し込んでくるわずかな月の光だけが、この寒々しい幽閉部屋を照らす明かりのすべてだった。
 だから今日のように月のない夜は、部屋の中は深遠の闇に包まれる。自分の指先さえ見えないこの闇にも、少しずつ慣れてきていた。
 誰ひとり付き従う者のいない、孤独な時間にも。
 それでも悪夢に怯え、眠れないまま過ごす夜は長い。
 レスティアは固い寝台の上で、もう何度目かもわからない寝返りを打つ。
 夜の静寂は、この寒さと一緒に骨身にまで染みついてしまっているかのようだ。
 このままひとりきりで、死ぬまで放って置かれるのではないか。
 救いの手も、安息の死も永遠に訪れることはないのではないか。
 そんなふうに思い詰めていたとき、ふと何かが近付いて来る気配を感じて身体を起こした。
 防音性の高い扉のせいで、足音は聞こえない。
 それでもこの部屋に幽閉されてから気配に敏感になってしまったレスティアには、それが今までとは比べものにならないくらい猛々しい気に満ちているとわかってしまう。
(……ああ)
 安堵のあまり、笑みが零れる。
 ようやく待ち望んでいたときが、訪れたのかもしれない。
 レスティアは寝台の上に身体を起こし、寝台の隙間に隠していたナイフを取り出した。
 長い空虚な時間も、彼女の決意を鈍らせることはなかった。
 すべてを奪った覇王に、一矢報いたい。そうして父と母の待つ場所へ行きたい。
 もう望みはそれだけだ。
(ずっと、このときを待っていた……)
 緊張と安堵で手が震える。
 それでも何とか入り口近くに身を潜め、息を殺して機会を待った。
 少しずつ近づく気配。
 鍵を開ける音が、静かな夜に響き渡った。
 手に滲む汗を衣服の裾で拭い、もう一度しっかりとナイフを握り締める。
 こんな暗闇に満たされた部屋の中に入り込もうとしているのだから、きっと相手はランプを持っているだろう。それが何よりも目印になる。
 やがて軋んだ音を立てて、ゆっくりと扉が開かれた。
 その動きに揺れる頼りない明かり。
 わずかに見えた赤い髪が、入って来たのが間違いなく覇王だと伝えている。
 あれが手の位置ならば、狙いはもう少し内側だろう。
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