亡国の王女と覇王の寵愛
「お前を殺すつもりはない。諦めろ」
「……私をどうするつもりなのですか」
 滅ぼした国の王族など、残してしまえばいつか面倒なことになる。それがわからないような人ではないだろう。
 ふとレスティアは、ここを何度も訪ねて来てくれたイラティのことを思い出した。
 彼女もまた祖国が滅ぼされた後も、こうして敵国の王城に囚われている。
 なぜジグリットはわざわざ滅ぼした王国の王女を王城に連れ帰り、こうして生かしておくのだろう。
「それはいずれわかる。もう一度聞く。これをどこで手に入れた?」
「……」
 低く問い糾す声。
 命令することに慣れきった、冷たい言葉だった。
 もしイラティから受け取ったと答えれば、彼女もまたこのような部屋に閉じ込められてしまうかもしれない。
「私のものです。隠し持っていたのです」
「隠し持っていた、か」
 それを聞き、ジグリットは至近距離まで近寄ってきた。
 気丈に振舞っていたが、レスティアは大切に育てられた深窓の姫君だ。ジグリットが傍に来ただけで、びくりと身体を震わせてしまう。
 怯えを悟られないように、手足に力を入れた。
「な、何を……」
 伸ばしてきた彼の手を振り払う。けれどそんな弱々しい抵抗など、この男には通用しなかった。
「今まで死のうとした者はいたが、俺に刃を向けた者はひとりもいなかった。どうやらただのか弱い王女ではないらしい」
 ジグリットはレスティアに手を伸ばす。
 まるで荷物のように抱え上げられ、寝台の上に運ばれると、体勢を整える暇もなく押し倒された。両手を頭の真上で固定されて、動きを封じられる。
「いやあっ」
 何をされるのか、はっきりわかったのではなかった。
 ただ近づいてくる彼が恐ろしくて、必死に逃れようと暴れた。
「何も知らずに、知ろうもせずに。悲劇の王女を気取って死ぬほうが傲慢だ」
 この言葉の意味を、このときは深く考える余裕などなかった。
「離して! 触らないで!」
< 17 / 103 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop