亡国の王女と覇王の寵愛
 どんなに文字を辿っても、どうしてもジグリットの姿が頭から離れなくて、こうして少し冷たい風に吹かれながら気持ちを落ち着けようとしている。
 最初に出逢ったときは、彼は侵略者であり、両親と祖国の仇だった。監禁部屋で会ったときも、憎むべき相手だった。
 だがジグリットは言った。
 何も知らずに悲劇の王女を気取って死ぬほうが傲慢だ、と。
 その言葉は何もかも失って死ぬことしか考えられなかったレスティアを、生へと引き戻した。
 あの国で何が起こったのか。どうして滅亡への道を辿ることになったのか。それを知るのが、今では自分の使命だと思っている。
 だからこそ、こうして生きている。
 それでも思う。
 彼は、ヴィーロニア王国の王ジグリットは本当に憎むべき仇であり、自らの父でさえ手にかけた非情な暴君なのだろうか。
 それとも真実は、まったく違うものなのだろうか。
(……真実。ここでもまた、真実ね)
 レスティアは溜息を付いて本を閉じ、そのまま寝台の上に仰向けに転がる。
 真実は、様々な理由でほとんど隠されているものかもしれない。故意に隠されているそれを探し出し、正しい答えに辿り着くのはきっと容易ではない。
 長期戦になる覚悟が必要だろう。
 敵国の中でただひとり。
 そんな中でどれだけやれるのか自分でもわからなかったが、それでもできるだけ頑張ってみようと決意する。遅すぎるかもしれないが、それが今、失われた祖国のために自分ができることだと信じている。
(でも今日は、少し疲れた……)
 もう寝てしまおうとナイトドレスに着替え、寝台の中に潜り込む。目を閉じると、ゆっくりと意識が闇に沈んでいく。
 そうして夢を見た。
 それはまだ祖国が滅ぶ前のこと。
 両親が生きていて、みんなが明るく笑顔で、胸が痛くなるくらいしあわせだった。
 それなのに気が付けば、父も母も、幼馴染も従兄弟も、ただの人形に成り果てていた。
 誰もいない古びた王城で人形達に囲まれてひとりで笑う自分の姿。
「いやああっ」
 悲鳴を上げながら寝台の上で飛び起きていた。
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