亡国の王女と覇王の寵愛
金色の髪が汗で貼り付いている。
肩で大きく息をしながら、レスティアは薄暗い部屋の中を見渡した。
「嫌な夢……」
自らの身体を抱き締めるようにして、悪夢の残骸を追い払おうと何度も首を振る。
何も知らなかったとはいえ、あの頃の自分はしあわせだった。それは間違いのない事実なのに、どうしてあんな夢を見てしまったのだろう。
窓を開けて新鮮な空気を取り入れても、少しも心が晴れない。こんなときは無理に眠ろうとしないで、気分を変えた方がいいのかもしれない。
レスティアは寝台の隣に置かれている小さな机の上のランプに火を入れ、上半身を起こして図書室から借りてきた本を開いた。
開け放たれたままの窓から入り込む風。揺れる灯りの下で文字を辿っていると、ふと窓の外で人の気配がしたような気がして顔を上げる。
(誰かいるのかしら……)
もう真夜中過ぎ。
警備兵はいるだろうが、王城も寝静まっている時刻だ。
レスティアは何気なく窓から中庭を見つめる。
月の明るい夜だった。
藍色に染まった空から降り注ぐ月光が、その人物の姿を照らし出す。
「あっ……」
思わず声を上げてしまい、慌てて口もとを押さえてカーテンの陰に隠れる。
噴水の傍に立ち、夜空に輝く月を仰ぎ見ているのは、ジグリットだった。
長い赤髪が風に揺れている。
噴水の音だけが響く静かな夜。
両手は下げたままだが、レスティアにはなぜか、その様子が祈りを捧げているように見えた。
だとしたら何のために、誰のために彼は祈っているのだろう。
気配を感じたのか、ふとジグリットは振り向いた。窓越しにレスティアの姿を認め、そうして淡く微笑む。
「……っ」
きつく唇を噛み締めて、その姿から目を反らす。
(私達は敵同士なのよ。それなのにどうして……)
どうしてあんなに無防備な笑みを見せるのだろう。
肩で大きく息をしながら、レスティアは薄暗い部屋の中を見渡した。
「嫌な夢……」
自らの身体を抱き締めるようにして、悪夢の残骸を追い払おうと何度も首を振る。
何も知らなかったとはいえ、あの頃の自分はしあわせだった。それは間違いのない事実なのに、どうしてあんな夢を見てしまったのだろう。
窓を開けて新鮮な空気を取り入れても、少しも心が晴れない。こんなときは無理に眠ろうとしないで、気分を変えた方がいいのかもしれない。
レスティアは寝台の隣に置かれている小さな机の上のランプに火を入れ、上半身を起こして図書室から借りてきた本を開いた。
開け放たれたままの窓から入り込む風。揺れる灯りの下で文字を辿っていると、ふと窓の外で人の気配がしたような気がして顔を上げる。
(誰かいるのかしら……)
もう真夜中過ぎ。
警備兵はいるだろうが、王城も寝静まっている時刻だ。
レスティアは何気なく窓から中庭を見つめる。
月の明るい夜だった。
藍色に染まった空から降り注ぐ月光が、その人物の姿を照らし出す。
「あっ……」
思わず声を上げてしまい、慌てて口もとを押さえてカーテンの陰に隠れる。
噴水の傍に立ち、夜空に輝く月を仰ぎ見ているのは、ジグリットだった。
長い赤髪が風に揺れている。
噴水の音だけが響く静かな夜。
両手は下げたままだが、レスティアにはなぜか、その様子が祈りを捧げているように見えた。
だとしたら何のために、誰のために彼は祈っているのだろう。
気配を感じたのか、ふとジグリットは振り向いた。窓越しにレスティアの姿を認め、そうして淡く微笑む。
「……っ」
きつく唇を噛み締めて、その姿から目を反らす。
(私達は敵同士なのよ。それなのにどうして……)
どうしてあんなに無防備な笑みを見せるのだろう。