亡国の王女と覇王の寵愛
 グスリール王国がそうだったように、リステ王国もまた滅びるべくして滅びたのだと彼女は告げる。
 イラティが両手で顔を覆うと、その細い手の合間から涙が零れ落ちた。
「わたくしは何もできませんでした。祖国が崩壊していくのを、ただ見つめることしかできなかったのです。ジグリット様に保護されてこの国に来てからも、何をしたらいいかなどわからずにただ泣いてばかりいました。今になってようやく落ち着いてきても、まだわたくしの心は祖国にあります。本当はあの国に帰りたくて、ただそれだけしか考えられないのです。リステ王家の者はわたくしひとりだけで、帰る場所なんてどこにもないのに」
 彼女がディアロスをあんなにも気にかけていたのは、恋をしていただけではなかったのかもしれない。
 ひとりきりになってしまったイラティは、自分にも彼のような存在がいたらと、そう願ってしまったのだろう。
「レスティア様も同じだと思っていました。わたくしにはもう誰もいないけれど、レスティア様にはディアロス様がいる。ディアロス様の存在が、きっと心の支えになると。でも、わたくしとは違うのですね。レスティア様はもう失われた祖国のことよりも、これからの未来を見つめている。……とてもお強いのですね」
「……」
 祖国が滅びてすぐに敵国の王の妻となったことを、白状だと詰られた方がましだったかもしれない。
 イラティの言葉に責めるような響きはまったくない。それなのに、ただ淡々と告げられた言葉がレスティアの胸を突く。
(お父様、お母様。ディア兄様……)
 彼女はそれ以上懇願しようとしなかった。
 明日の朝、また伺いますと告げ、静かに立ち去っていく。それなのにレスティアはそこから動けず、そのまま立ち尽くしていた。

 イラティの言葉でこんなにも心が揺れている。
 どんなに自分で決めた道だと思っていても、周囲から見れば結局は祖国とディアロスを捨てた薄情な王女なのかもしれない。
 そのままレスティアは、眠れない夜を過ごしていた。
 椅子に座って見上げていた空は少しずつ白くなり、やがてゆっくりと光が生まれる。小さな点だったその光は、見つめている合間にどんどん広がり、夜を退けていく。
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