亡国の王女と覇王の寵愛
「兄様は私が説得します。ですが、こんな夜中に男性の部屋を訪れることはできません。明日の朝には、必ず伺いますから」
瞬時に、イラティの顔から笑みが消えた。
いくら覚悟を決めて口にしたとはいえ、尋ねて来たときよりも悲壮な様子を見ていると心が痛む。
まだ真夜中過ぎ。
明日の朝までには随分時間がある。恋する人が衰弱している様子を見ながら、夜通し窓もない部屋に立ち尽くす彼女の姿が見えるようだ。
「でも、人目に付くといけないのでは……」
か細い声で懇願されると、心が動きそうになる。
それでもレスティアはもう亡国の王女ではない。このヴィーロニア王国の王妃として軽率な真似はできないと、心を強く持つ。
「人目を忍んで行くつもりはありません。帰国したら、きちんとジグリットにも報告します。ですから明日の朝になってから、兄様に会うつもりです」
レスティアの身を案じてこんなにも厳重な警備を残してくれた、ジグリットの心を無駄にするような真似はしたくない。だから明日の朝になったら護衛の兵を連れて、ヴィーロニアの王妃として会うと決めた。
もしかしたらディアロスは、祖国を滅ぼした男の妻となってしまったレスティアを詰るかもしれない。それでもジグリットに顔向けできなくなるようなことをするつもりはなかった。
イラティは、顔色を失ってその場に座り込んでしまっている。
訪問が明日の朝に延びただけでこんなにも思い詰めてしまうなんて、ディアロスの状態はそんなに悪いのかと不安になる。
それでも揺れそうになる気持ちを引き締めて、唇を噛み締めた。
(でも私は、自分で選択した。だからあとは貫くだけ)
そんな決意はイラティにも伝わっていたのだろう。彼女は呆然とした様子で、まるでひとりごとのように呟いた。
「……わたくしは、祖国を失ってジグリット様に保護されました」
何も見ていないような、空虚な目。伝えるのではなく、自分の中にあるものを吐き出しているかのような言葉。
レスティアは何も言えず、ただ彼女の言葉を聞いていた。
「リステ王国が滅びたのは、王位継承権を争って叔父と兄が争い続けていたからです。ついには内乱にまで及ぼうとしたときに、ジグリット様が兵を進めてきました。そのときこそ、叔父と兄が手を取り合ってヴィーロニアに対抗するべきだったのでしょう。そうすればあの国はまだ存在していたはずです。でも、しなかった。攻め込んでくる敵を目前にしながらも、まだ争いを続けていたのです」
瞬時に、イラティの顔から笑みが消えた。
いくら覚悟を決めて口にしたとはいえ、尋ねて来たときよりも悲壮な様子を見ていると心が痛む。
まだ真夜中過ぎ。
明日の朝までには随分時間がある。恋する人が衰弱している様子を見ながら、夜通し窓もない部屋に立ち尽くす彼女の姿が見えるようだ。
「でも、人目に付くといけないのでは……」
か細い声で懇願されると、心が動きそうになる。
それでもレスティアはもう亡国の王女ではない。このヴィーロニア王国の王妃として軽率な真似はできないと、心を強く持つ。
「人目を忍んで行くつもりはありません。帰国したら、きちんとジグリットにも報告します。ですから明日の朝になってから、兄様に会うつもりです」
レスティアの身を案じてこんなにも厳重な警備を残してくれた、ジグリットの心を無駄にするような真似はしたくない。だから明日の朝になったら護衛の兵を連れて、ヴィーロニアの王妃として会うと決めた。
もしかしたらディアロスは、祖国を滅ぼした男の妻となってしまったレスティアを詰るかもしれない。それでもジグリットに顔向けできなくなるようなことをするつもりはなかった。
イラティは、顔色を失ってその場に座り込んでしまっている。
訪問が明日の朝に延びただけでこんなにも思い詰めてしまうなんて、ディアロスの状態はそんなに悪いのかと不安になる。
それでも揺れそうになる気持ちを引き締めて、唇を噛み締めた。
(でも私は、自分で選択した。だからあとは貫くだけ)
そんな決意はイラティにも伝わっていたのだろう。彼女は呆然とした様子で、まるでひとりごとのように呟いた。
「……わたくしは、祖国を失ってジグリット様に保護されました」
何も見ていないような、空虚な目。伝えるのではなく、自分の中にあるものを吐き出しているかのような言葉。
レスティアは何も言えず、ただ彼女の言葉を聞いていた。
「リステ王国が滅びたのは、王位継承権を争って叔父と兄が争い続けていたからです。ついには内乱にまで及ぼうとしたときに、ジグリット様が兵を進めてきました。そのときこそ、叔父と兄が手を取り合ってヴィーロニアに対抗するべきだったのでしょう。そうすればあの国はまだ存在していたはずです。でも、しなかった。攻め込んでくる敵を目前にしながらも、まだ争いを続けていたのです」