亡国の王女と覇王の寵愛
「はい」
「レスティア様? ご気分が悪いと伺ったのですが……」
 気遣わしげな声は、メルティーのものだった。きっとジグリットが連絡してくれたのだろう。レスティアは寝室の扉を開けて、彼女を迎え入れる。その背後にはミレンの姿もあった。
「ミレン?」
「ジグリット様に、レスティア様に今回の経緯を説明するようにと言い付かりました」
 そう言うと、彼女は穏やかに微笑む。
 最初はおとなしそうな女性だという印象しか持たなかったミレンだったが、歴史を通じていろいろな話をしているうちに、彼女がとても芯の強いしっかりとした女性だということがわかってきた。きっとジグリットもそんなミレンを信頼しているのだろう。
 だからこそレスティアも、不安な胸の内を包み隠さず話そうと思えた。
 メルティーが淹れてくれたお茶を飲みながら、さきほど感じた寂しさを、虚しさをすべて打ち明ける。
 ミレンは口を挟まず、最後まで静かに聞いてくれた。
「ジグリット様は、レスティア様を本当に大切に想っていらっしゃいます。だからこそ、不安もあるのでしょう」
「不安?」
 ジグリットが、あの堂々とした覇王が何を不安に思うのだろう。
 ミレンの言葉に、レスティアは首を傾げる。
「ジグリットが何を不安に思うの?」
「レスティア様の祖国に、兵を向けてしまったこと。国を奪ってしまったこと。そうして、たったひとり残された身内である、レスティア様の従兄に追っ手を向けてしまったこと。もちろん、ジグリット様の行動にはすべて理由があります。ですが、愛しているからこそ不安も生まれる。嫌われても仕方がないことをしてきたと、そう思っていらっしゃるのでしょう」
「そんなの……」
 ミレンの言うように、ジグリットの行動にはすべて理由があったのだと、今のレスティアは知っている。最初の頃は何も知らずに本気で憎んでいた。せめて一矢報いたいと、刃を向けたことさえあったのだ。
 そう言われてみれば、一度でも本気でレスティアから憎しみを向けられたことがあるジグリットが、不安を覚えてしまうのも無理がないのかもしれない。
(私の気持ちをわかってくれないと思っていた。でも私も、ジグリットも不安になるなんて考えもしなかった……)
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