イジワルなくちびるから~…甘い嘘。【完】
零士先生が言う"違う内容"……それは――
社長が零士先生と薫さんを認めていると言ったのは、ふたりの関係ではく、仕事ぶりのこと。そして社長がふたりに強く乞われたのは、お母さんを許して欲しいということだった。
当然、社長はお母さんを許すことができず激怒したが、真実を知り、お母さんと寄りを戻す決心をした。それが"家族が増えるということは幸せなことだからね"という言葉に繋がっていたんだ。
では、あんなに頑なだった社長の心を動かした"真実"とは――
社長はお母さんが年下の画家と浮気をしていると思っていたけど、本当は、そういう関係ではなかった。
お母さんは、その若い画家と絵について話すのがとても楽しかったそうだ。なんでも話せる仲になり、社長に絵を描くことを反対されていると愚痴ると才能があるんだから絶対に絵を辞めてはいけないと励まされた。
「それでお袋は決心したんだよ。親父と別れて自由になり、絵を描き続けようと……」
零士先生の言葉に小さく頷いたお母さんが私の元に歩み寄り、零士先生とよく似た切れ長の目を細めて柔らかな笑みを浮かべる。
「私を励ましてくれた彼は、同じ夢を持つ、同士だったのよ。彼と私は愛情ではなく絵で繋がっていただけなのに、主人は私達の関係を誤解して彼を絵画界から追放しようとしたの」
同士……それは以前、私が薫さんとの関係を零士先生に問うた時、彼が使った言葉と同じ……
「仕方なく活動の場を海外に移すという彼に、私は言ったわ『夢を叶える為、私も一緒に連れて行って』と……」