イジワルなくちびるから~…甘い嘘。【完】
「でも、ここは日本だよ」と愛想なく呟くと「俺はパリに行った時の話しをしているんだ」って切り返され、なんか話しが噛み合わないなと思っていたら……
「希穂も一緒にパリに行ってくれるよな?」
それはあまりにもサラッと出てきた言葉だったので、危うく聞き流してしまいそうだった。だからピンとこなくて一呼吸置いてから「ええっ?」と大声を上げる。
「わ、私も一緒に?」
「当たり前だ。モデルが居なけりゃ絵が描けない。その為に荷物をまとめておけと言ったんだ」
「ああーっ! 社宅を出ろと言ったのは、そういう意味だったの?」
零士先生は初めっから私をパリに連れて行くつもりだったそうで、もう既に航空券も予約してあると……
また独りぼっちになると思っていたから嬉しかったけれど、海外で暮らす不安は拭えない。つい、私に務まるかなって弱音を吐いてしまう。
「心配するな。俺が付いてる。希穂に寂しい思いはさせない。それに……」
「それに?」
「……希穂がパリに来なかったら、俺が寂しい」
そう言ったのは零士先生なのに、私の方が照れて真っ赤になってしまった。
……零士先生ってば、本当は甘えん坊? や、やだ……可愛い!
完全に母性本能を刺激され、シーツに顔を埋めて悶絶していたら、間接照明の照度を少し上げた零士先生がベッドから出て私を呼ぶ。
それでもまだ室内は薄暗い。シーツを体に巻き付け、目を凝らしながらフカフカの絨毯の上を歩いて行くと、壁に掛けられた小さな絵画が目に留まった。