イジワルなくちびるから~…甘い嘘。【完】

「あっ……この絵は……」

「希穂の裸婦画だ」

「わぁ~凄く綺麗に描いてくれてる」


まるで自分じゃないみたいな美しい裸婦画に見惚れていたら、彼が私の肩を抱き「俺は見たままを描いたんだ」って満足そうに微笑んでいる。


そしてその笑顔のまま「この絵、返さなくていいよな?」と私の顔を覗き込んできた。


もしかして、この絵を個展とかに出す気? いやいや、それは困る。芸術作品とはいえ、これは私のヌードだ。世界中の人に裸体を晒すなんて絶対にイヤ!


かなりビビってブンブン首を振るが零士先生も引き下がらない。


「この絵は俺の最高傑作だ。どうしても手元に置いておきたい」

「イヤだ! 零士せ……ん、じゃなくて、零士以外の人に見られるのは耐えられない」


するとフッと笑った零士先生が「そんな心配してたのか」と私を引き寄せる。


「誰がこの絵を公にすると言った? この絵は門外不出だ。希穂の裸を他人に見せるワケないだろ?」


それを聞いて安心した。そうだよね。いくらなんでもそれはないよね。


「しかし、俺が死んだ後のことは分からない。だから俺が死んだ時、この絵を棺桶に入れてもらうことにした」

「か、棺桶?」


かなりヘビーな話題になり体がフリーズするも、零士先生は全く気にする様子もなく話し続ける。


「そうすれば、俺と希穂はあの世に行っても永遠に一緒に居られる。死がふたりを分かつまで……なんて希穂に対する俺の愛はそんな甘っちょろいモノじゃないからな」

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