可愛げのない彼女と爽やかな彼氏
その日の午後
昼休みに社食であった事は、当たり前のようにみんなに知れ渡っていて、自分の席で仕事をしているだけなのに視線を集め、ヒソヒソと話しているのも目に入るのだが、それらを無視して仕事をしていた


「清水さん、ちょっといい?」
「は〜い、なんですかぁ〜?」


なんでいつまでたっても、返事もまともに出来ないの?この子は

彼女は入社2年目の清水里菜
先日私が『よくうちの会社に入れたわね』と言った張本人
直属の部下なので、教育係も任されていたのだが、かなり手こずっていた


「この書類、データ打ち間違えてるからやり直しておいて」
「えぇ?またですか?」
「あなたが間違えてなかったら、やり直す必要もないんだけど?」
「はぁ、分かりましたぁ」


その時、渋々席に戻る清水さんの独り言が聞こえた


「ちょっとモテるからっていい気になってんじゃないわよ」


いつもの私なら、聞き流していただろうに、今日の私はそれが出来なかった


「清水さん。その書類、お客様に渡す書類なの。それは分かってるの?」


ビクッとして私に振り向いた


「分かってるの?」
「……はい」
「あなたのそのミスは、お客様にとっては、うちの会社のミスとして捉えられるのよ、その書類のミス1つで」


今にも泣きそうな顔をしているが、そのまま続けた


「もう入社して2年目でしょう?いい加減、社会人としての自覚を持ったらどうなの?」


我慢出来なくなったのか、涙が滝のように流れている


泣けば全部許されると思ったら大間違いなんだけど


「泣く暇があるんだったら、さっさと作り直してくれる?それ明日持って行かないといけないの」
「じ、じゃ、他の人に頼めば、い、いいじゃないですかぁ……」


そんなしゃくりあげて泣くことじゃないでしょ?


「さっき、社会人としての自覚を持てって言ったでしょ?まだ分からないの?それは、あなたに頼んだ仕事。あなたの仕事なの。ちゃんと最後までやり遂げなさい」


そう言って、私は清水さんから視線を外した
清水さんは泣き止もうともせず、返した書類をバンッと机に叩きつけて、部屋を出て行った

それを見て溜め息をついた
そしてまた、みんなの視線を集める


やっぱり私は悪者にしかなれないんだわ


「あの、進藤係長。俺がその書類作りましょうか?多分清水さんしばらく戻って来ないと思います」


そう言ってきたのは、入社5年目の宮本忠直くん
宮本くんも直属の部下だ


「ありがとう。でも最後までやらせないと、いつまでたっても成長しないから、宮本くんは手を出さないで」
「でも、明日持って行くって、結構重要な書類でしたよね?」
「そう、重要だけど簡単に処理出来る書類だったから、頼んだんだけどね。いざとなったら、私が作るから。大丈夫よ」


にっこり笑って宮本くんを見ると、彼は苦笑しながらも頷いて席に戻って行った


私も内心溜め息をつきながら仕事に戻ると、スマホにメッセージが届いた
差出人は、祥ちゃん


『今日、仕事早く終わる?よかったら、家にご飯食べに来ませんか?慎一郎さんが相川さんと一緒に出張って言ってたから。久しぶりに奈南ちゃんとお喋りしたいなぁって』


思わず笑みがこぼれた
私も祥ちゃんに会いたいな


『お誘いありがとう。絶対定時で上がって、お邪魔させてもらいます。ケーキ買って行くね』


そう返事をすると、『待ってるね〜』と返ってきた


やっぱり女友達ってありがたいと思いながら、定時で上がれるように集中して仕事をした
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