可愛げのない彼女と爽やかな彼氏
部長に未練を残したまま、数ヶ月が経った頃、部長が結婚するという噂が会社内を駆け巡った
お見合いで会った人と結婚を決めて、数ヶ月後には式を挙げるとも……

ただその時思ったことは、なぜ私じゃダメで、その見合い相手とは結婚しようかと思ったのだろうと言うことだ

その見合い相手に興味を持った
どんな人なのか、会ってみたいとも思った


その機会は簡単に訪れた
F社と取引している、アメリカのDインテリアの日本支社長が新しく就任する事になり、その就任パーティーに部長夫妻が呼ばれたのだ

その日本支社長が、部長がアメリカで勤務している頃の知り合いで、是非奥さんに会いたいと言うことなのだが……

実際のところ、うちの三浦常務が皆川部長に個人的な恨みを抱いていて、無理やり部長夫人を引きずり出したと、専らの噂だった

そのパーティーにはマーケティング部から、私も出席することになり、やっと部長夫人にお目にかかれると、内心喜んでいた

パーティー当日
部長夫妻はと言うより、部長夫人は注目の的だった
私もずっと夫人を見ていた
はっきり言って、完璧だった
出席者のデータは頭に入っているらしく、ちょっと戸惑っていても、部長と部長秘書がフォローすると素早く対応し、支社長との会話も流暢な英語を披露した

端から見ていた三浦常務も、悔しそうな顔を隠そうともしなかった

部長の奥さんは、美人と言うわけではなかった
でも、ふんわりとした可愛らしい人だった
何より私がショックだったのは、部長が奥さんに接する態度だ
奥さんに対する優しい笑顔や仕草
奥さんもそんな部長を信頼して、安心しきっている

何より2人の雰囲気が、とても幸せそうだった

私に無くて、奥さんにあるものって、何だったんだろう?

部長と別れてからずっと抱え込んでいた気持ちを押さえる事が出来なかった

だから、部長が奥さんから離れるのを見計らって、奥さんに近づいた

初対面にも関わらず、私は奥さんに失礼な態度をとって、その上「部長のことを諦め切れていません」とまで、言ってしまった

自分で言った後も、何を言っているんだろうと思ったし、奥さんに付いていた部長秘書なんて、オロオロしていた

だがしかし、奥さん…祥子さんは、そんな私に「慎一郎さんは私のことを愛してますから」と満面の笑みで言ってのけ、更に私に早く会場に戻った方がいいとまで言ってくれた
私の立場を考慮して言ってくれているのが、見ていて分かった

その時、私はこの人には適わないと思った
部長が祥子さんを選んだ理由が分かった気がした

そして、思わず言った


「友達になってくれませんか?」


祥子さんは快く受けてくれた

元彼の奥さんと友達になるなんて、考えたこともなかったけど、今では結構仲良しになっている



出先での要件を終えて、会社に帰ろうとスマホを見たとき、メッセージが入っていた

差出人は、相川健次
元彼の部長秘書をやっている人だ

『今夜、会えませんか?』

それを見て、自然に笑顔が浮かぶ

『いいですよ。仕事終わったら連絡します』


と返信した

相川くんとは、つい先日、彼氏彼女になった

きっかけは、祥子さんだったりする
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