可愛げのない彼女と爽やかな彼氏
勝負
いよいよ時間がやって来た
皆川部長と宮本くんが同席してくれることになっていた


「相川さん、帰ってきませんね」


宮本くんが相川くんの席を見ながら呟いた
相川くんは、ちょっと出掛けてくると言って外出していた


「相川くんは午後からだからね」
「でも……」
「進藤係長、宮本。行こうか」
「はい。宮本くん、行こう」
「はい」


宮本くんは何かを言いたそうだったが、皆川部長に促されて一緒に部屋を出た
役員室へ行く途中、皆川部長が宮本くんに話し掛けた


「宮本、三浦常務が進藤係長に手を出そうとしたら、遠慮しなくていい。投げ飛ばせ。それと、相川から伝言」
「相川さんから?」


部長は私を見て、ふっと笑って言った


「『奈南美さんを守ってくれ』だとさ」
「はい!」


力強く頷く宮本くんを見て、部長はさあ行こうと言って、私達は階段を登って行った
秘書室に入ると、皆川部長に気付いた木崎課長が近付いてきた
そして私を見て、目を丸くした


「進藤係長……ですか?」


木崎課長の言葉に秘書室がざわついた
どうやら、誰も私だと分からなかったらしい


「どうしてそんな……」
「ちょっと思うところがありまして」


にっこり笑って言うと、木崎課長は苦笑して、私達を社長室へと促した


「俺も同席しますから」


木崎課長はそう言うと、社長室のドアをノックした
私は、ふうっと息を吐いて社長室に入った

社長室に入ると、席に着いている吉田社長、社長のデスクの前にある応接ソファーに三浦常務が座っていた

三浦常務は私の姿を見るなり、ニヤッと笑って、私を舐め回すように見ている
その視線に背筋がゾッとしたが、社長の前に行こうとしたとき、三浦常務が自分のペンを足元に落とした


なんてあからさまな……


私はスッと進んで三浦常務の足元にしゃがんでペンを拾った
そしてそのまま、三浦常務を見上げて、笑った
それはもう艶っぽく
三浦常務が息を呑んだのが分かった
そして私は立ち上がって三浦常務にペンを差し出した


「落としましたよ」
「す……すまないね」


1度天国へは行ったでしょうから、今度は地獄ね
私は少々唖然としている吉田社長の前に進んだ


「今日はお時間を取って下さってありがとうございました。マーケティング部第1課の進藤です」
「君の事は皆川から聞いてるよ。それで?用件と言うのは?」
「これを見て頂きたくて」


私が書類を手渡すと、社長はすぐに目を通して、眉を寄せた


「『三浦常務のセクハラに対する陳情書』?」
「はい」
「何だって!?君は何を言っているんだ!」


後ろで三浦常務が立ち上がったのが分かった
しかし、すかさず宮本くんが私と三浦常務の間に割って入る


「三浦常務、落ち着きなさい。進藤係長、ちゃんと説明してもらおうか」
「はい。まず、これを聞いて下さい」


先日の三浦常務との会話を録音したボイスレコーダーを再生させた

はっきり言って、あの時の会話で三浦常務は直接的な性的表現はしていない
それは三浦常務のずる賢いところだとは思う
でも……


「私は三浦常務の『K貿易の重役の相手をしろ』という言葉を『K貿易の重役とセックスして来い』という意味と判断しました」
「ふんっ、馬鹿馬鹿しい!社長、こんな小娘の言うことを信用するんですか!」
「その『小娘』という言葉も言われた側の気持ち次第ではセクハラになるんですよ」
「なっ!」


後ろにいる三浦常務がどんな顔をしているのか分からないが、私は気にせず口を開いた


「その署名は、そのボイスレコーダーを聞いた私の部下が、女性社員に声をかけて募ってきたものです」
「署名だと!?」
「『三浦常務に何らかの処分が下されない場合、ここに署名している私達は辞職もやむを得ない』か」
「だったら、辞めてしまえばいいじゃいか」


社長が書類に書かれている文章を読むと三浦常務はドカッとソファーに座った


「そういう訳にはいかないな。三浦常務、ちょっと見てみるといい」
< 35 / 93 >

この作品をシェア

pagetop