結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
きっと社長のことだからいいお寿司屋さんに連れて来てくれるのだろうと思ったけど、予想通り。心の準備をしてきてよかった!

こんな高級寿司店に初めて訪れたことの緊張でそわそわしつつも、目の前に一貫のお寿司が出されると、感動で目を輝かせてしまう。

まずは鯛をなんとかひと口で頬張る。上品な脂がとろけて甘みもあり、めちゃくちゃ美味しい。


「ん~すっごく美味しい! こんなお寿司は初めてです~」


語彙力がなくてありきたりかつ嘘っぽい感想しか出てこないけれど、本当にそう思う。

同じくひと口で食べた社長は、「俺もここの寿司が一番好きなんだ」と言って微笑んだ。


「お母さんたちにも食べさせてあげたいなぁ」


一貫ずつしっかりと味わう私の口からは、満足げなため息とともにそんなひとことがこぼれた。

お茶を飲んでいた社長は、湯呑みを置いて何気ない調子で言う。


「倉橋は実家暮らしだったか」

「はい。母と姉と、三人暮らしです。父は私が小学生のときに亡くなりました」


彼が亡くなったのはもう二十年も前のことだから、私はなんの抵抗もなく話せるけれど、相手はだいたい気の毒そうな顔をする。

今の社長も同じで、そんな顔をさせてしまったことを少し申し訳なく思った。

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