結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
肩をすくめてぎこちなくお礼を言った直後、さらっと聞き捨てならないセリフが飛び込んできて、目を見開く。

ん? 今のは魚じゃなくて……接吻のこと、ですよね!?

“俺のために”と言われるのもなおさら恥ずかしいし、ていうかキスって!

いろいろとつっこみたいけれど、「え、あ」とかいう意味を成さない言葉しか出てこない。

そんな動揺しまくる私を、彼は横目でおかしそうに眺め、手を伸ばして頭をぽんぽんと撫でた。

あぁもう……からかっているのかなんなのか。この人の思考は本当に読み取りづらい。

でも、恋人同士の本物のデートみたいな感覚に陥ってしまいそうだ。勘違いしないよう、気をつけなければ。


終始悶えっぱなしで二十分ほど走り、目的のお寿司屋さんに到着した。

社長のあとに続いてそろそろと敷居を跨ぐと、高級感と温かみがある店内には、横長のコの字になった桧のカウンターが広がる。

新鮮な魚が並べられたケースの向こうでは、大将がシャリを握っている。当然ながら回らないお寿司だ。メニューにも値段は書かれていない。

事前になにを食べたいか社長に聞かれたとき、この間の接待ではフレンチだったため、和食がいいと伝えた。

すると、『じゃあ寿司でも食いに行くか』と提案され、お寿司大好きな私は二つ返事でOKしたわけだ。

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