結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
「そうか……大変だったな」

「私は全然苦労してないんです。大変だったのは母なので。寂しかったですけどね、すごく」


そばにいてほしいときに、その存在自体がこの世のどこにもないというのは、とても辛いものだった。

今でもたまに、お父さんのことを思い出してセンチメンタルになるときがある。


「でも、私たち家族が不幸だとは思いません。三人でも、それなりに楽しく過ごしてきましたから」


これまでの、三人で助け合ってきた日々を思い返しながら笑顔を向けると、社長も安堵するような笑みを見せて頷いていた。

そう、お父さんがいなくても悪いことばかりではなかった。女三人での生活はとても気楽で、それでいて絆は深まったように思うし。

それに……私がサンセリールに入ったのも、今思えばあのときのことがきっかけだし。

湯呑みの中で揺れる液体を見るともなしに眺め、お父さんの告別式が終わった直後の、ある出来事を思い出す。

黒い服を着た多くの人が集まる中、私は皆から離れたところでひとり泣いていた。そんな私に気づいた参列者のひとりが、チョコレートをくれたのだ。

それが、他でもないサンセリールの商品で。ここのお寿司のように、それまでに食べたどのチョコレートよりも美味しかったことを覚えている。

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