結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
……それなのに、なぜだろう。手を伸ばすことをためらってしまうのは。

以前にも似たようなことがあったな。あれは、そう、甘利さんとお寿司屋さんで再会したときだ。

あのときも、すぐ掴めるところに幸せがあったのに、自ら手に入れないという非効率的な道を選んだ。

それは、明確な理由があったからではなく、なんとなく“この人ではない”と感じたから。今もまったく同じ感覚を抱いている。

もしかしたらこれが、本能というものなんじゃないだろうか。

今回も、本能が感じるままにお断りしたほうがいいのか、それとも合理的に考えてお付き合いをするべきか……。しばらく悩んでみたものの、その答えは今のところ選べそうになかった。


 * * *


不安定な梅雨空の下、出勤途中で会った咲子ちゃんと一緒に、私はいつものようにサンセリール本社へと向かっている。

突然交際を申し込まれたあの日から数日、葛城さんからのアクションは特になにもない。彼は忙しいに違いないし、連絡先も交換しなかったから、なにもできないと言ったほうが正しいのかもしれない。

保留にしたままの返事をいまだに決めかねている私は、とりあえず同士に相談したいのだけれど……。

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