結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
ドキン、と心臓が揺れた。

それは本能で私に触れたくなるという意味なのだろうか。女として光栄なことなんだろうけど、求められているのがキスだけだとすると、あまり喜ばしいことではないような。

複雑な気分になりつつ、「抑えてくださいよ」とボソッとつっこむと、彼はクスクスと笑った。

というか、付き合ってもいないのにまたキスをしてしまった……! どうしていつも流されてしまうんだ、私は。

恥ずかしさと気まずさ、そして自分への落胆が少々混ざり合う。俯きがちに、ようやく緩められた社長の手から眼鏡を受け取った。

唇の感覚と涙がわずかに残る目を、ゴシゴシと手の甲で拭ってから眼鏡をかけていると、その様子を見ていた社長が独り言をこぼす。


「綺代って、誰かに似てると思ったらアイツか……」


その発言が気になり、乱れた長い前髪を手直ししながら問いかける。


「アイツ?」

「……大切なやつだ。もう俺のものではないけどな」


切なげな微笑みと、哀愁が漂う声を聞いた途端、胸の奥で不穏な音がした。

今の言葉を裏返せば、一時は彼のものだった大切な人がいるということだ。私が似ているということからしても、女性であるに違いない。

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