結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
「倉橋さん!」


本社のほうから呼ばれたことで我に返り、氷室くんの手が離され、私はぱっとそちらを向く。

エントランスの屋根の下に立っているのは、久しぶりに会う社長秘書の綾瀬さんだ。目が合うと、二重の瞳は穏やかに細められ、紅い唇はゆるりと弧を描いた。

彼女に声をかけられるとは思わず、私はあからさまに挙動不審になってしまう。


「あ、お、お疲れ様です……!」

「すみません、少しお話をしても?」


まだ勤務中らしき綾瀬さんは、私に向かってそう言った。

穏やかな微笑みを崩さない彼女からは、言い知れない恐さを感じる。それはきっと、私が彼女の“裏”を知っているから。

話ってなんだろう。私、接待のときのスパルタ指導以来、綾瀬さんが苦手になっちゃったのよね……。

内心ビクビクしつつも承知して、氷室くんに向き直る。

いつもの無表情に戻っている彼だけど、秘めた情熱みたいなものをかいま見てしまった今は、どこかセクシーさを感じる。


「氷室くん、ありがと。……また今度話すね」


雨避けになってくれたことのお礼と、葛城さんとのことを相談したい意思を示して微笑んだ。

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