結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
現代数学上の未解決問題の中で、最も重要な問題と言われるP対NP問題は、解けたら百万ドルもらえるほどの超難問なのだ。

葛城さんからの選択がそれよりも難しいというのはさすがに言いすぎだけれど、かなり頭を悩まされるのは事実。恋愛でのいざこざなんて初めてだし……。

力無く笑って目を伏せる私の頬に、ふいに温かなものが触れる。

手、だ。氷室くんの。

彼が私の顔に触れるという異常事態に驚き、目を丸くして見上げると、眼鏡の奥の先鋭な瞳がこちらを見つめていた。

ひとつの傘の下、思いのほか近くにあるその表情が切なげに歪む。


「……あなたにこんな顔をさせる彼が憎らしい」


静かな中にも悔しさや腹立たしさが滲む声がぽつりとこぼされ、ドキリとした。

こんな感情を露わにする彼は初めて見る。今の言葉にも、なんだか深い意味があるように思えてしまう。

この間からちょっとおかしいよね、氷室くん……。研究のしすぎで頭のシステムが誤作動を起こしたのかしら。


「氷、室くん?」


彼らしくない言動に胸がざわめいて、動揺を隠せない。

とりあえず、頬に添えられたままの熱い手をどうにかしたくて、私のそれを重ねようとした、そのとき。

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