結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
軽くパニック状態で歩調を早めていると、突然彼が立ち止まり、引っ張られる形になって私も足を止めた。

振り向けば、社長は真剣な表情でこちらを見据えている。ふざけているでもない、力強い双眼にドキリとするほどだ。

大通りを行き交う人々が、私たちにチラチラと視線を向けて通り過ぎていく中、繋いだ手に少し力が込められ、彼の唇が動く。


「彼女ではなく、君でなければダメなんです。言ったでしょう、『私には君が必要だ』と」


私に言い聞かせるようにしっかりと紡がれた声を聞くと、不思議と混乱が落ち着いていく。

きっと、社長なりにちゃんとした意図があるはず。そして、私を必要としてくれていることには間違いないらしい。とにかく、詳しい話を聞かなくちゃ。

少し湧き始めていた逃げ出したい気持ちを押し込めるように、私は彼の温かい手を握り返した。


 *


車に乗り込むと、社長は運転しながらようやく詳しい事情を語り始めた。


「今日の接待の相手は、パティスリー・カツラギのオーナーシェフ、葛城 丈(かつらぎ じょう)さんです。ご存じですか?」


その名前を聞いて、私は目を丸くする。

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