結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
なんというか、アンニュイだなぁ……。でも、この人があの天才パティシエなんだ。ちょっと感激する。

内心浮き足立つのを抑え、ひとまず先ほどの個室へ向かった。葛城さんは外の景色が一番良く見える席につくなり、私に目を向けて口を開く。


「なんだか秘書さんはこういう場が慣れてなさそうですね。新人さんですか?」


急に話を振られてドキリとする。

口元は微笑んでいるものの、目はわずかに蔑みが混じっているように見えるし……なぜ。

身体を強張らせるも、とりあえず自己紹介をしようとすると、先に社長がフォローしてくれる。


「彼女は秘書ではなく、有能な研究員なんです」


“有能”という単語に恐れ多くなりつつ、背筋を伸ばして軽く頭を下げる。


「商品開発研究課の倉橋と申します」

「へぇ……まさか研究員さんを連れてこられるとは」


意外そうに目を丸くした葛城さんは、綺麗だけれどどこか冷たく感じる笑みを浮かべる。


「よかったです。僕は、お飾りの秘書をはべらかしているような人があまり好きではないので」


ほんの一瞬、空気が張りつめたような気がした。

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