結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
葛城さんも、誰かさんと同じく思ったことをそのまま口にするタイプのようだ。違うのは、礼儀をわきまえる場にもかかわらず言ってしまうところか。

というか、秘書をはべらかすような人になにか恨みでもあるんですか……。

絡みづらそうな葛城さんにも社長は常に動揺せず、話題を振って会話を繋げる。

ワインで乾杯し、コース料理も運ばれてきて、私は綾瀬さんから教えてもらったことを思い返し、緊張しながらも食事を楽しんでいた。

「この料理美味しいですね」なんて当たり障りない話をしていたそのとき、カチャリとお皿にナイフとフォークを置いた音が響く。

葛城さんに注目すると、手を休めた彼は突然こんなことを言い出す。


「僕が今日あなた方のお誘いを受けたのは、ここのフレンチを食べてみたかったのと、ビジネスのお話を断るためです」


毅然と放たれ、今度こそ完全にピシッと空気が凍りついた。

す、すごいド直球……。今日は直接的な話はしないと思っていたのに、さすがというかなんというか。


「期待をさせてしまっていたら、申し訳ありません」


謝ってはいるものの表情は平然としている葛城さんは、グラスを持ち上げてワインに口をつけた。

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