結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
ご機嫌取りだと思っているらしく、葛城さんは料理に目を落としたまま「それはどうも」と棒読みする。

それでも、まだ引かないわよ。


「あのショコラのカカオは、ベネズエラ産のクリオロ種ですよね? そして、ナッツはおそらく信濃クルミでしょう。どちらも最高品種と言われていますが、その良さを最大限に引き出した逸品だと思います!」


自分なりに分析した結果を一気に話した途端、食事する葛城さんの手が止まり、驚きに満ちた瞳をやっと私に向けてくれた。


「よくわかりましたね。グラースの原材料は公表していないのに」

「良いものはつい吟味してしまう癖がありまして」


今私が言ったことは、すべてご機嫌取りではなく本心だ。

なんとか葛城さんの懐に入り込みたいな……と思い、さらに気の利いた言葉を探していると、黙っていた社長が口を開く。


「彼女の分析力や知識は秀逸なんですよ。採用試験の面接でも、呆れるほど自社製品の特徴について語っていたくらいですから」


おかしそうに笑ってグラスに口をつける彼を、私はまじまじと見つめてしまう。

私が入社試験を受けたのなんて、もう五年も前のこと。それを、この人は覚えているっていうの?

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