結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
信じられない気持ちで当時のおぼろげな記憶を蘇らせるも、社長が話を少し方向転換させたことで、再び意識を現実に戻す。


「実は、わが社でもクリオロ種を使ったチョコレートを作っているのです」

「そうなんですか? 他社には興味なくて全然知りませんでした」


葛城さんは純粋に食いついてくれているようだけれど、本当に正直だ……。

当然嫌な顔はしない社長は、眉を下げて苦笑しながらこんなことを打ち明ける。


「こだわって作っているのですが、いまだに国際コンクールでは受賞を逃してしまっていて」


あらら、そんなこと言っちゃっていいのかな? サンセリールがその程度だと思われたら、さらに取引なんてしたくなくなってしまうのでは……。

ひとりハラハラしてなりゆきを見守っていると、葛城さんは案の定眉をひそめる。


「クリオロを使って受賞できないなんて……あなた方、どんなものを作っているんですか。一度食べてみたいものですね」

「えぇ、ぜひご指導していただきたいですよ。改良を進めているので、ひとことでも感想をお聞きできたら嬉しいです」


社長の言葉で、葛城さんの表情から嫌味な色が消え、いたずらっぽい笑みに変化する。

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